名古屋みなとロータリークラブ

卓話Speech

2023年10月27日(金)(第2682回)例会 No.12

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三宅 民夫様
元NHKアナウンサー
三宅 民夫

今伝えたい、言葉のチカラ

私は、数々の失敗や挫折があり、その時、言葉に救われたことが何度もありました。その思い出や悪戦苦闘した中から、皆さんにお話しできればと思います。まずは、私の経歴です。

1952年 名古屋生まれ
1975年 NHK入局 盛岡⇒京都放送局
1985年 東京アナウンス室
    『電子立国日本の自叙伝』『おはよう日本』
    『紅白歌合戦3回』中島みゆきさんが黒部ダムから中継を行った時の総合司会を務めました。
2017年 フリーアナウンサー

今も、「鶴瓶の家族に乾杯」「おはよう日本」など、時々担当しています。多くの方からのどうしてアナウンサーになったのですか?という質問の答えに窮していたのですが、これだという写真が出てきました。小学校4年ぐらい、昭和30年代テレビが家に来た頃のものです。それまでは隣の家に観に行っていて、テレビに惹かれていました。



実はラジオが、高い位置に置かれています。このテレビはどんどん伸びていましたが、当時ラジオの製作者は素晴らしく、テレビに負けていられるかとディスクジョッキーや深夜放送など、次々に魅力的な番組を生み出しました。私は、8時くらいまでテレビを見て、夜は部屋で小さいラジオで『ミッドナイト東海』とか『ヤングリクエスト』を聴いていました。当時は、テレビ・ラジオで活躍するのは、主にアナウンサーで、アナウンサーを目指しました。憧れてアナウンサーになったので、あがり症だということに気づきませんでした。それで、アナウンサーになってから苦労することになります。

私の人生の中で、二度言葉のチカラに救われた事があります。
一つが高校時代。もう一つは、紅白歌合戦を担当していた50代の働き盛りの頃です。

まずは、高校時代の言葉のチカラですが、「エイちゃん」と呼んでいた担任の先生がいました。木曾路に遠足に行った帰りのバスで、みんなで、歌を歌ったのですが、私はすごく音痴で、順番が回ってくるのが嫌だなと思っていました。遂に順番が来て、私は、島崎藤村の「木曾路はすべて山の中である」で始まる『夜明け前』の朗読をしました。終わった後、まばらな拍手でシーンとした空気になり、失敗したなと落ち込みました。そのままだったら、アナウンサーは目指さなかったかもしれないです。学校に着いてバスを降りる時に、バスのステップの所に立っていた先生が、「三宅君、良かったよ。木曽路の空気が伝わってきたよ。」と言ってくれたんです。それまで失敗したなと嫌な気持ちだったのが一転して嬉しい気持ちに変わりました。その言葉が無かったら、ひょっとすると私は、アナウンサーの道を歩んでいなかったかもしれないです。
担任の先生 エイちゃんは、私がアナウンサーを目指して放送部に入っていたことを当然知ってたと思います。だから声をかけてくれたのではないかと思います。今でも大変だなという時にその言葉を思い出します。

二度目に救われたのは54歳の時(2006)。「三宅アナ、体調不良ダウン」との記事が新聞に出ました。左側の背中がしびれるように痛くなり、赤ワインのような血尿に見舞われました。診てもらったら左側の腎臓に大きな腫瘍が見つかりました。後に良性とわかるのですが、最初はわからず、大きな腫瘍なので左の腎臓を摘出する事になりました。アナウンサーとしての人生はおしまいかもしれないと思いながら病院に向かいました。
寂しい気持ちで入院していると、病院に便せん7~8枚にびっしり書かれた手紙が届きました。アナウンサーの大先輩、鈴木健二アナウンサーからです。私は、鈴木健二アナウンサーに憧れてアナウンサーになりました。アナウンス室で一緒だったのですが、物凄く偉い人なので声を掛ける事もできませんでした。「鈴木健二と申します。そういえばそういう人間がいたな、ぐらいは思い出していただけるでしょうか?」 という書き出しで、鈴木さんも現役の時、左の腎臓に腫瘍があって摘出手術をされたとのこと。鈴木健二さん、病院から通って収録していたんです。手紙には、「私も手術をすることになりました。その時私はしめたと思いました。何故か。手術というのは、生きる希望が無ければしないからです。」鈴木さんは、鈴木さんの事を手紙で語っているのですが、私は、それにすごく励まされたのです。そして、「今仕事のことが心配だと思いますが、心配ありません。一年や二年の休みなんて、どうってことはありません。」とありました。私は、そこをすごく心配していたので、手紙に勇気づけられました。

言葉のチカラというのは、いざという時に、心や命の杖になってくれますし、人を励ます心の贈り物にもなります。誕生日にどんないいプレゼントをされても数年後には何をもらったか忘れてしまいます。だけど皆さん、言葉を思い出してください。子供の頃、あるいは、会社で褒められた言葉って忘れないんですよね。

ところが、その力を発揮するには敵がいる、アナウンサーの仕事でそれを感じました。ストレスです。アナウンサーは、難しいことを優しく、時には意見が分かれるものをバランスを取り、間違えずに限られた時間で人前で話さなくてはならない。そこからくる緊張は凄く、それと戦っていました。この緊張が言葉のチカラの敵になっていると思います。違う声になるし、噛む、間違える、それから忘れる。
声は人間の体の中の空洞で共鳴をして、人間らしい声になりますが、緊張して固くなっていると共鳴しなくなり、声が違うように感じます。
噛む。間違う。緊張で口の回りが悪くなり口元が固くなって噛んでしまいます。忘れるというのは、緊張すると新しい酸素や栄養を持った血がまわらないことが関係していると考えられます。

一番大きいのがコミュニケーションを揺さぶる、壊すです。朝のニュースのキャスターを私が担当していた時は、生のインタビューがありました。生でインタビューするのは大変です。的がはっきりしていないと、何のインタビューだったか分からなくなってしまいます。前日の午後にディレクターと打ち合わせをします。「この事を聞けばいい」という事が見えている時はいいんです。そうではない時も、結構あります。ディレクターと議論をして、だんだん時間が経って、夕方が近づいてくる。私は、聞くことがわからないと、ちゃんとしたインタビューができない。そうすると聞いてくれている人に申し訳ない気持ちになります。責任を果たさなければならない。それで、時々「ダメじゃないか。何でもっと調べてくれなかったんだ。もっと的を絞ってよ!!」ちょっとキツイ言い方をしておりました。今ならパワハラかもです。

パワハラって、本人がいじめようと意識をしていないケースもあるような気がします。すごい責任があって、緊張して、それがどうしようもない時、答えが見つからない時、責任にのまれて責任感で強い言葉を言ってします。そういう事があるような気がします。

緊張がコミュニケーションを壊すの?とお感じになっていると思いますが、会議で声を荒らげる人がいたとします。雰囲気が悪くなり、中にはそれに反発する人もいる、緊張はうつるんです。この緊張を何とかしなければいけないと思いました。言葉の敵の一つの大きなものは緊張である、そういう中でどう言葉にチカラを出していけばいいのか。

ちょっとややこしいですが、人間の体は、血圧、呼吸、脈拍、心臓の鼓動、こういったものはみんな自律神経という神経系統がつかさどっています。自律神経というのは、私たちが自分の意志で何とかしようと思っても、コントロールできない。神経が自律して動いてくれているんです。体温、脈拍、呼吸も全部自然にやってくれますよね。つまり、人間の体というのは、ある意味自動運転の車みたいなものなんです。その自動運転の車には、大きく二つの指令系統があって、交感神経と副交感神経。交感神経はアクセルのような役目をする。だから頑張ろう、もうちょっとちゃんとやろう、これが交感神経。緊張を伴いますね。一方の副交感神経はブレーキ、弛緩をします。リラックスしようとします。血管、臓器など、全部交感神経と副交感神経があります。血管の場合、緊張すると、ぎゅっと縮んでいきます。なので末端まで血がいく。でも、細くなったままだから血は流れない。血管は副交感神経が働くと広がる、ゆったりと血が流れる。消化器は交換神経が働くとあまり消化しません。なにか仕事があるときとか食べる気もしないことはありませんか。逆にリラックスしている時は、副交換神経が働いて消化をしてくれる。心臓も交感神経が働くと脈拍が早くなる、副交感神経が働くとゆったりする。今、私たちの状況はどうなっているかというとその交感神経が頑張りすぎているという状況にあるんです。それをどうしたらいいか、なんとか副交換神経に働いてもらうにはどうしたらいいのかということで、ツボ三つをあげます。

まず一つ目は睡眠。よく眠れた時は結構落ち着いてますよね。あるバイオリニストの方の話では調子が悪いときは眠れた日の朝の気持ちを思い出すと落ち着いた気持ちが戻ってくると言われます。いい睡眠が即効きます。何故か。これも交感神経と副交感神経の関係です。何で眠ると副交感神経が働くのか。シンプルなんです。副交感神経は、寝ている間に頑張ってくれています。よく眠ると心が落ち着いて、次の日頑張れる。
仕事とかって徹夜に近い状況になったりするときって寝てないですよね。その場合は交感神経の高まりの中、さらに次の日の朝を迎えるいうことになっているかもしれないです。なので睡眠はすごく大事です。でも大事な時ほど眠れないですよね。昼寝とかもすごく効きます。少しでも時間があったら目をつぶります。ウトウトとかできたら最高です。それでかなり落ち着きが戻ってきます。

二つ目、体操。緊張で体が硬くなっていて冷静な判断ができなくなったときは、硬くなった体を戻すのです。ストレッチでも、足腰伸ばすだけでも。ほわっとした、緊張が解けた感じがします。ゴルフの前にはぜひお試しください。準備運動って怪我をしないためにやっていたじゃないですか。それだけじゃないと思いますね。多分本当はもっと効果があって、緊張という面から考えるとすごく意味があると思います。

もう一つ何でしょうか。これが、一番即効性があります。呼吸です。ちょっと忘れ物をしたり、あるいは困ったことがおきたりした時は呼吸が浅くなります。深い呼吸できなくなるんです。そういうときは深呼吸が効きます。緊張して呼吸が浅くなっているのをゆったりさせる。特に吐く息の方が副交感神経を働かせます。だから短く吸って長く吐く。二倍ぐらいの長さ吐いていた方が落ち着きが戻ります。カラオケで歌うと終わった後気持ちよくなるは、自然に深呼吸ができているからでなんですね。実は呼吸ってものすごく面白いものなんです。自動運転の車で人にコントロールができないと申し上げました。呼吸は夜寝ているとき自動運転です。だけど深呼吸はできます。自律神経にコントロールされているけれども、呼吸は私たちの意思で介入もできるものなのです。ここがものすごく面白い。つまり呼吸を頭に置くことで心に働きかけることができる。そのことに2500年前に気づいた人がいます。釈迦です。ブッダは自分の呼吸をとにかく観察するというところから、瞑想を始めたそうです。覚えてらっしゃいますでしょうか。少し前ですが、タイの洞窟で子どもたちが閉じ込められました。あの時サッカーの指導者であった青年が一緒に閉じ込められているんですがその青年が実は幼い頃寺にいたことがあり、寺で瞑想を習っていたため、それを子どもたちに伝えていたそうです。

ストレスや不安で心も乱れる時代です。とにかく緊張をとかないと相手を思う余裕が生まれません。呼吸・体操・睡眠。自分の心をまず見て冷静に対処するということが大事です。言葉の力とその力を出す三つのポイントについてお話をいたしました。

ありがとうございました。

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