卓話Speech
2025年3月28日(金)(第2735回)例会 No.27
あなたも30分でアナウンサーになれる!バックナンバー >

- 元メーテレアナウンス部長
- 浅沼 道郎様
メーテレを定年退職したのが6年前で、今も話し方についてお話しさせて頂いているのですが、必ずと言っていいほど、「アナウンサーの様に話し上手になるにはどうしたらよいですか」というご質問・ご要望を頂きます。どんな世界でも同じですが、プロのアナウンサーは最初からプロではありません。ではアマチュアからプロになるには何が必要なのか。私は2つあると思います。一つは経験、二つ目はその経験をいかに生かすか、自分でトレーニング方法を見つけることです。私は28年間アナウンサーを勤めて、話し上手になる7つの技をまとめて1冊の本にしました。今日はこの本の内容を30分で全てお伝えします。
第一の技『話すスピードを意識せよ』
人間は不思議なもので突然指名されたり、緊張したり、興奮したりすると間違いなく喋るスピードが早くなる、早いから自分でも何をしゃべっているのかわからない、わからないから相手に伝わらない。ですから第1のコツは胸の中で大きく深呼吸してゆっくり話す意識を持つそれだけです。
第二の技『緩急強弱、そして間を意識せよ』
どんなにゆっくり喋っていても最初からゆっくり喋っていたら聞いている方はだらっとしてきますよね。あの人の話し方って心地が良いという事は、リズムがある。テンポが良い。緩急強弱、つまり一番相手に伝えたいことはゆっくり強くしゃべろうという事です。
そして『間』。『間』というのは、私は日本の伝統芸能の中で最強のテクニックだと思っています。能・狂言では、激しい動きがあってパッと止まる、この間がうまく取れないと『間が悪い』とか、『間抜け』という言葉もこの語源です。アドルフ・ヒトラーを演説の天才と言わしめた理由の1つはこの『間』ともう一つは『ジェスチャー』です。二つとも喋らない話し方のテクニックです。
第三の技『滑舌を意識せよ』
歯切れが良いと明るく聞こえ好感度が上がるので、アナウンサーは一音一音丁寧に発声発音しようという意識を常に持っています。だから歯切れのよい喋り方ができます。日本語の五つの母音の口の形を意識するだけで歯切れは良くなります。例えば初めてお会いした人に覚えてもらいたい自分の名前など、これだけは伝えたい事は頭の中で平仮名に置き換えて口の形を作って発声発音しよう、という意識をもって喋っています。一度意識してみてください。
第四の技『パターンを暗記せよ』
これは、ちょっと難しくなります。スポーツの実況は早い、野球の場合ボールの動きを実況する即時描写が基本なので普段の1.5倍のスピードで喋らないといけない。1.5倍のスピードで野球中継2時間半~3時間喋るのは大変ですよね。いちいち見ながらだと絶対に間に合わないです。ピッチャー投げた、バッター打った、1.2塁間を打ったら必ずライト前ヒットになる、このパターンを丸暗記しています。三遊間へ打ったら必ずレフト前ヒットになる。このフレーズを出せばドンピシャの表現が出来る、そのフレーズがいかにたくさん入っているかでアナウンサーのスキルがわかります。
私はアナウンサーになる前は競馬の実況はできないと思っていました。でもパターンがあるんです。1着2着3着が合っていれば誰も文句は言いません。皆さんは競馬中継を覚える必要はないですが、この地方のリーダーですから、パーティーに出席して乾杯や中締めの挨拶をお願いされたら、何も用意していないと断るのではなく頭の中に気の利いた原稿を2つ3つ丸暗記しておいて下さい。1分で良い、2~3分だと長い、長いと弔辞になってしまします。
第五の技『ボキャブラリーを増やせ』
ジェンダー差別をするつもりはないのですが若い女性と話すと時々イライラします。あまりにも語彙が貧困で何を見ても「可愛い」というからです。本当の可愛いというのは、小さきもの、幼き者に対する愛着の表現です。そこは狭き門をくぐったアナウンサー。『まず可愛いものを思い浮かべ次に可愛いという言葉を使わないで別の言葉で表現しなさい』という研修があるんです。
1人のアナウンサーが「私は若いパパとママの間であどけない赤ちゃんの表情を思い浮かべました。」と言いました。別のアナウンサーは「私は小さい豆柴です。手足にまとわりついてくるそのいじらしい姿を可愛いと思いました。」『いじらしい』、意味は分かるけどあまり使いませんよね。いろいろな表現の中でドンピシャの表現は一つしかないと信じて、アナウンサーは毎日新しい言葉を覚えるという訓練をしています。日々勉強です。
第六の技『ユーモアを交えよ』
どんなに中身が濃くても最初から最後まで難しい専門用語ばかりだと眠くなりますよね。たった一つの言葉で雰囲気がガラッと変わるような魔法の言葉、そういう所にユーモアがあると思います。今から20年前退官を控えた有名な経済学の有名な教授の最後の授業を取材に行きました。広い階段教室にびっしりの聴衆、全国から教員の方も集まりズラッとテレビカメラも並び、授業を聞いたんですが、静まり返っていて申し訳ないけれど眠くなってきました。
その時にその先生がある学説を紹介するのを「そんなバナナ」と言ったんです。ただのダジャレ。みんな一瞬固まりましたがその後大爆笑、大爆発しました。そこから今までの張りつめた空気がガラッと変わってその先生が人間味にあふれる人に見え、そこから難しい話が耳に入ってくるようになった、いまだにあの時の光景を私は忘れません。
第七の技『表現力を高めよ』
レトリック(修辞技法)の中にメタファー(隠喩、暗喩)というものがあります。特にメタファーというのが、「まるで○○のようだ。」と表現する所を「まるで○○だ。」という技法なんですね。これをいかに効果的に使うかが、表現力のポイントだと思っています。
このメタファーを使って天下を取ったアナウンサーが古舘伊知郎さん。彼と僕は同期で、この本の帯を書いてもらいました。『この本はしゃべりの解剖学教室だ。』これもメタファーです。
古舘くんはテレビ朝日、僕は名古屋テレビ、別会社ですが系列ネットワークを組んでいる所は年2回研修を一緒にやるのでみんな仲が良いです。一緒に語り合った古舘くんは、自分の喋るコメントを書き溜めている大学ノートを持ち歩いていてそれを丸暗記しているんですね。
当時、2m20cm、240キロのアンドレ・ザ・ジャイアントというレスラーがいました。「浅沼、俺このレスラーを『動く人間山脈、1人民族大移動』こう喋りたい。」と言われたので、僕は今でも後悔しているのですが反対しました。当時のテレビ朝日の先輩アナウンサーも反対しました。
先輩にも同期にも反対されても喋るのが古舘伊知郎君です。「2m20cm、240キロ、まさに動く人間山脈であります。蘇る現代のガリバー旅行記であります。一人民族大移動、一人というには大きすぎる、かと言って二人と言ったら世界の人口統計がおかしくなってしまう。」このおかしな中継を世の視聴者は指示して視聴率はグングン上がりました。
古舘くんは29歳でフリーになり、フジテレビのF1中継でアイルトン・セナの事を音速の貴公子と名付けました。アイルトン・セナはサンマリノのグランプリで200キロ以上出している直線コースでコンクリートの壁に激突し、帰らぬ人になりました。古舘くんは「アイルトン・セナ、彼は神になった。神へのパスポートを持っていた。」こう表現したんですね。こういうアナウンサーは常に努力をしています。何気なくテレビの実況中継を聞いても常に努力している、こういう事をおわかりいただけたらと思います。
最後に、いい話し手は人を動かすことが出来ると私は思います。つまり言葉で人や社会も動きます。皆さんはこの地方のリーダーでいらっしゃる。これからもさらにこの地方を豊かに素晴らしい地域にするために今日の私の話をほんのわずかでもご活用いただけたら、こんなに嬉しい事はありません。
最後までご清聴ありがとうございました。

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